
11学部・4研究科×98名×3日間。同志社大学データサイエンスハッカソン全記録 — DDASH HACKS 2025 開催レポート
理工学部だけじゃない。経済学部、法学部、生命医科学部、文学部、社会学部——11学部・4研究科から98名が集まり、28チームが3日間を駆け抜けた。同志社大学のデータサイエンス教育プログラム「DDASH」から生まれたハッカソンの全記録です。
DDASH HACKSについて
2026年2月23日〜25日の3日間、同志社大学・今出川キャンパスで「DDASH HACKS 2025」を開催しました。
エントリー数は109名。想定を大きく上回る応募があり、最終的に98名・28チームが参加しました。
主催は同志社大学 全学共通教養教育センター、運営は私たちハッカソンプラットフォーム「CraftStadium」(運営: 株式会社CoPalette)。NTT西日本株式会社、paiza株式会社、株式会社ストライク、フリュー株式会社の4社にスポンサーとしてご協力いただきました。
テーマは 「データを活用し、社会をより良くするサービスを提案する」。
参加者はオープンデータを自分たちで探し、課題を設定し、3日間で分析・開発・プレゼンまでを一貫して行います。
このハッカソン最大の特徴は、15の学部・研究科から参加者が集まったこと。最多は理工学部ですが、経済学部や文化情報学部、生命医科学部、法学部、商学部、政策学部、文学部、社会学部、ILA……と、全参加者のうち約半数が非理系の学生です。同志社大学が全学で展開するデータサイエンス教育プログラム「DDASH」には、現在7,500名を超える在学生が学んでいます。DDASH HACKSは、その"学びの成果"を実践に変える場として企画されました。
▶ DDASH HACKS 2025 イベント詳細はこちら (外部リンク)

「どの学部からでも戦える」を本気で設計した
「ハッカソン」と聞くと、コードをバリバリ書けるエンジニアの大会、というイメージを持つ方が多いかもしれません。
DDASH HACKSは、その前提を覆すところから設計しました。参加者の半数近くが理工学部以外の学生。経済学部、法学部、商学部、文学部——普通のハッカソンではまずエントリーしない学部の学生が、同じ土俵で戦う場を作りたかったのです。
まず、事前準備として8本のチュートリアル記事をCraftStadium上で公開。「Googleスプレッドシート+Looker Studioで、コードを1行も書かずにダッシュボードを作る」ノーコードルートから、「Google Colab+pandasでデータ分析する」ローコードルート、そしてフルスクラッチで開発するルートまで、スキルレベルに応じた3つの道筋を用意しました。
そして審査基準。5つの審査項目(課題設定の独自性、データ活用の適切さ、提案の実現可能性と社会的価値、発表の論理性と説得力、創意工夫と挑戦度)はすべて5点満点で、「技術力」を直接問う項目はありません。「初心者チーム・挑戦的な試みも積極的に評価する」と明記しました。
これは単なる甘さではなく、DDASHが掲げる「全学横断型のデータサイエンス教育」の理念を、評価の仕組みにまで落とし込んだ結果です。経済学部の学生が持つ市場分析の視点、法学部の学生が持つ制度設計の視点——コードを書く力以外の「強み」を正当に評価できる設計にしました。

Day 1 — 始まりの緊張と、動き出すチーム
初日の朝。会場の新創館には、続々と学生たちが集まってきました。
エントリーの31チームのうち、もともとチームを組んで応募した26チームに加え、個人応募の学生をスキルバランスを考慮してマッチングした5チームが参加。初対面のメンバーと3日間を過ごすことになったチームも少なくありません。
開会式でテーマが発表されると、各チームはすぐに議論を開始。「どんな社会課題に取り組むか」「どのオープンデータが使えるか」——白熱する議論とキーボードの打鍵音が交錯する空間が生まれました。

メンター紹介 — 5名の技術メンターが常駐
3日間を通じて、5名の技術メンターが会場に常駐し、チームの開発をサポートしました。
- 池内 晃 氏 — 関西大学ビジネスデータサイエンス学部 / 株式会社COROLE CTO
- 小森 一輝 氏 — Bit Blend Inc. 代表 / 元日本マイクロソフト ソフトウェアエンジニア
- 福島 康介 氏 — 関西学院大学工学部
- 山本 新 氏 — CraftStadium エンジニア
- 篠原 晴樹 氏 — ECCコンピュータ専門学校 4年生
大学教員から起業家、現役エンジニア、そして専門学校の学生まで。多様なバックグラウンドを持つメンター陣が、技術選定の相談から方向性のアドバイスまで、気軽に声をかけられる環境を作りました。

3日間で合計5食——「食」で支える開発環境
DDASH HACKSでは、開発に集中できる環境整備の一環として、同志社大学内の食堂「アマーク・ド・パラディ寒梅館」にて3日間で合計5食(初日昼・夕、2日目昼・夕、最終日昼)の食事を提供しました。
ハッカソンにおいて食事のサポートは意外と重要です。食事の心配がなくなることで、チームは開発とディスカッションに集中でき、食事の時間はチーム内の雑談やメンターとのカジュアルな交流の場にもなります。「ごはんが出るなら行ってみようかな」——エントリーの動機としても、地味ながら効いていたかもしれません。

Day 2 — 開発の佳境と、中間報告
2日目は、もっとも開発に集中する1日です。
朝から会場に詰めるチーム、前夜遅くまでオンラインで作業を続けていた形跡のあるチーム。温度感はさまざまですが、全チームに共通していたのは「何かを形にしなければ」という切迫感です。
中間報告 — 2グループに分かれて現状共有
2日目には中間報告を実施しました。全28チームを2グループに分け、各チームが現状の進捗と直面している課題を共有。
他のチームの取り組みを聞くことで、いい意味での刺激が生まれます。「あのチーム、そんなデータの使い方してるのか」「うちも方向性を変えたほうがいいかも」——中間報告をきっかけにピボットしたチームもあったようです。
印象的だったのは、技術力の高いチームだけが順調なわけではないということ。課題設定が鋭いチームは、シンプルなツールでも説得力のあるプロダクトを形にしていました。逆に、AIを使いこなすチームでも、「それで何を解決するの?」という問いに苦戦するケースも。
データサイエンスは、単にツールが使ったりコードを書いたりする技術だけでは成り立たない。 2日目を通して、その実感が運営チームの中でも強まっていきました。17の学部・研究科から集まった参加者が、それぞれの専門知識を武器に課題に向き合っている姿がそこにありました。

Day 3 — 提出、審査、そして歓声
最終日。開発の制限時間は11:30まで。
朝から最後の追い込みをかけるチーム、発表資料の仕上げに集中するチーム。成果物はパワーポイント形式で統一し、全28チームが提出しました。今回想定よりも多いチーム数だったため、書類審査で発表チームを10チームほどまで絞り込みました。
そのため書類審査で選ばれたチームは歓声を上げていました。

書類審査 → 最終発表
まず全28チームの提出物を審査員が書類審査し、最終発表に進むチームを選出。選ばれたチームは、審査員と参加者全員の前でプレゼンテーションを行いました。

発表の内容は、どれも私たちの予想を超えるものでした。
京都のオーバーツーリズムに取り組んだチームが複数ある中で、それぞれのアプローチがまったく違う。バス停で実際に待機列の人数を数えたチームもあれば、安定マッチング理論という数学的手法で人流分散を設計したチームもある。行政のPDFに埋もれた事業評価シートをAIで構造化したチーム、国会の会議録をRAGで検索可能にしたチーム——3日間で、ここまでのものが出てくるのかと。
受賞チーム紹介
Grand Award(最優秀賞):トモシゴト本丸 — ECONOMA
少子化・賃金格差による地方中小企業の働き手流出という課題に対し、経済学の「ハフモデル」を用いて企業の労働力獲得スコアを算出。政府統計と企業データを統合し、地域・業種・企業ごとの人材流出リスクを地図上に可視化するダッシュボードを開発しました。
特筆すべきは、その技術力と問題解決のアプローチ。AIが生成した計算コードが実用に耐えないことに気づき、数式の構造を人間が読み解いてアルゴリズムを改善。さらにGPU並列化を加え、累計230万倍の高速化を実現しました。「AIの出力に違和感を持ち、数式の構造を読み解いた人間の介入によるもの」——この記述に、データサイエンスの本質が凝縮されています。


Excellence Award:チームはらたい — ポリミル
「国会でどんな議論がされているのか、多くの国民にはわからない」——そんな課題感から、国会会議録をAIで構造化し、政党ごとの立場や議論の推移を視覚的に表示するアプリを開発。RAG(LlamaIndex + ChromaDB)を活用し、Google Cloud Runでデプロイまで完了させました。


Excellence Award:Do'er — 遠回りナビ
「最短ルート」を追求する既存のナビに対して、あえて遠回りするルートを提案するアプリ。京都府の観光オープンデータを活用し、目標時間や消費カロリーに応じた寄り道ルートを動的計画法で生成します。React + FastAPIのフルスタック構成で、UIの誘導性にもこだわりました。
日常の移動を「作業」から「発見の時間」に変える。その発想の転換が評価されました。


Data Science Award:ハッカネズミ — SyncKyoto
京都のオーバーツーリズムに対し、Gale-Shapley安定マッチング理論を観光地推薦に応用した意欲作。単なる「おすすめスポット表示」ではなく、ユーザーの好みと観光地の混雑状況を双方向の選好として定義し、人気スポットへの集中をアルゴリズムで回避する設計です。60件以上のテスト、Cloudflare Tunnelによるゼロトラスト構成など、プロダクション品質のインフラ設計も光りました。


Data Engineering Award:温泉同好会 — YADORISK
宿泊施設が特定の国籍に依存しすぎるリスクを可視化・予測するプラットフォーム。JNTO訪日外客統計、観光庁の消費動向調査、京都市のオープンデータを統合し、HHI/エントロピーによる依存度分析、LightGBMによるシナリオ予測、さらにLLMによる戦略提案までを一体化しました。
為替変動や感染症リスクが宿泊需要に与える影響をシミュレーションできる実用性の高さが評価されました。


企業賞
NTT西日本賞:インサイト — Litter Flow
大阪湾に流れ込むプラスチックを減らすため、大阪市内の町丁目ごとに「海に流れ込みやすい度」を可視化。雨の前に回収すべきエリアを特定する実用的なツールです。
paiza賞:311号室 — 観光消費単価に着目した観光戦略ダッシュボード
「観光客を増やす」のではなく「一人あたりの消費単価を上げる」という視点の転換が新鮮でした。観光庁データを用いたクラスタリング分析で、自治体ごとの戦略を提案します。
ストライク賞:new to hackathons — パークアンドライド比較シミュレーター
チーム名がまさに「ハッカソン初挑戦」。パークアンドライドの利用有無による移動効率の違いを可視化し、観光客の合理的な判断を支援するサービスを開発しました。初挑戦のチームがスポンサー賞を獲得したこと自体が、DDASH HACKSの設計思想を体現しています。

28チームが取り組んだ社会課題の広がり
受賞チーム以外にも、印象的なプロダクトがたくさんありました。
女子ITサークルの「SafeWatch-ここもり」は、子供の防犯と親の監視のジレンマを解決する見守りアプリ。危険エリアに進入した時だけGPS表示を解禁するというアイデアは、プライバシーとセーフティの両立をデータで設計した好例です。
伊丹の白詰草は「乗れないバス、清水まで60分」というインパクトあるタイトルで、京都市バスの混雑問題に挑みました。実際にバス停で待機列の人数を数えるフィールドワークを行い、Googleマップには表示されない「待ち時間」を可視化。開発の動機について「京都で大学生活を始めたばかりの私は、観光客で溢れかえるバスの混雑にとても驚きました」と語っています。
カルピスは、日本に住む外国人が医療制度を理解するための多言語AIチャットボットを開発。マッチングで初めて出会ったメンバーで構成されたチームが、「3日間精一杯頑張りました」と添えて提出した姿が印象的でした。
いぬの「ワ。」は、投票データから「一票の価値偏差値」「若者ゆとり指数」といった独自指標を作成し、都道府県バトルというゲーム形式に落とし込んだユニークなアプローチ。
2人チームの優柔不断は「人数が少なく、2人とも初心者で、テーマが決まるのに時間がかかり、中途半端になりました。次に生かしたいと思います」と振り返りを寄せてくれました。この正直な言葉に、ハッカソンの本質的な価値——つまり「やってみた」という経験そのものの大切さ——が詰まっています。

数字で振り返る DDASH HACKS 2025
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| エントリー | 109名 |
| 実参加 | 98名・28チーム |
| 参加学部・研究科 | 11学部・4研究科(理工学部、経済学部、文化情報学部、生命医科学部、法学部、商学部 他) |
| 取り組んだ社会課題 | オーバーツーリズム、行政DX、医療アクセス、防犯、環境、労働、政治参画、メンタルヘルスなど 10分野以上 |
| 使用技術 | Python、React、Next.js、FastAPI、Streamlit、LightGBM、LlamaIndex、Gemini API、CUDA etc. |
| 使用データソース | e-Stat、京都市オープンデータ、国土数値情報、警察庁データ、国会会議録API etc. |
運営を振り返って
DDASH HACKSは、私たちCraftStadium運営チームにとっても大きな挑戦でした。
約100名規模のイベントを、同志社大学の教育プログラムと連携する形で設計・運営する。事前のチュートリアル記事の制作、チームマッチング、メンター・審査員のコーディネート、当日のオペレーション——やるべきことは山のようにありましたが、最終日に並んだ28のプロダクトを見て、すべてが報われた気持ちになりました。
特に感じたのは、学部の多様性は設計しないと実現しないということ。審査基準に技術力の直接的な評価を入れないこと、ノーコードでも挑戦できるルートを用意すること、事前にチュートリアル記事でスキルの底上げをすること——これらすべてが噛み合って初めて、経済学部や法学部の学生が「自分にもできるかもしれない」と思える場が生まれます。
そして、15の学部・研究科から集まったチームが生み出したプロダクトの多様性は、理工系だけのハッカソンでは決して出てこないものだと思います。交通事故データの分析、国会議論の見える化、ヤングケアラーの可視化、美術館の財政問題——課題を発見する力は、学部の専門性の中にこそありました。

最後に
DDASH HACKSに参加してくれた98名の学生の皆さま、メンター、審査員としてお力添えいただいた先生方、そしてスポンサーとしてこの場を支えてくださったNTT西日本株式会社、paiza株式会社、株式会社ストライク、フリュー株式会社の皆さま、本当にありがとうございました。
DDASHは開設4年目にして、7,500名の在学生が学ぶプログラムに成長しました。その"学びの成果"を形にする場として、DDASH HACKSはこれからも進化していきます。
「うちの大学でもハッカソンをやってみたい」「企業としてスポンサーや共催に興味がある」という方は、お気軽にお問い合わせください。
DDASH HACKS 2025 イベントページ (外部リンク)
写真撮影: 小野寺