
技術の輪を広げる一歩 - Flutter初心者向けハッカソン主催者インタビュー
大阪を拠点に活動する学生エンジニアたちが今年3月、「Flutter Jr. ハッカソン」と題した初心者向けのハッカソンイベントを開催しました。7チーム26名の参加者が集まり、1週間の開発期間で全チームが完成作品を発表するという熱気あふれるイベントとなりました。
今回は主催者である野村朋生さん(大阪大学工学部4年)と信田浩希さん(大阪公立大学M1)に、ハッカソン運営の舞台裏と今後の展望についてお話を伺いました。
コミュニティから生まれたハッカソン
―― まずはお二人の自己紹介と、ハッカソンを開催するに至った経緯を教えてください。
野村さん: 大阪大学工学部4年の野村朋生です。大学入学直後にFlutterのサークルに入ったものの、うまく身につかず挫折しました。その1年後、「ぽちぽちのつどい」というFlutter開発サークルを立ち上げました。また、プログラミングを教えてくれる先輩と出会い、一緒にアプリを作る中で「Ale Engineer」というコミュニティも始まりました。
信田さん: 大阪公立大学M1の信田浩希です。野村くんとはその先輩繋がりで知り合い、長く一緒に活動しています。普段はFlutter開発が中心で、一般社団法人を立ち上げたり、Ale Engineerの活動をしたりしています。
―― Flutter Jr. ハッカソンを開催しようと思ったきっかけは何ですか?
野村さん: 最初は先輩が開発しているアプリを広めたいという思いから、小規模なイベントを企画していました。昨年、Ale Engineer内の後輩を集めて小規模のハッカソンを開催したところ、「もっと面白いことができそう、もっと人を集められそう」という手応えを感じました。そこから「いつかもっと大きなハッカソンを開きたい」という話が出ていて、今年の春休みに本格的に動き出しました。
信田さん: 当初はコミュニティ内だけでやろうとしたんですが、なかなか人が集まらなくて。そこでConnpass経由で幅広く募集をかけ、より多くの人にFlutterを知ってもらう機会にしようと考えました。規模を大きくするにあたって開催資金も必要になったので、協賛企業も集めながら準備を進めていきました。
ペルソナで広がるアイデアの幅
―― 今回のハッカソンではユニークなテーマ設定をされていましたね。
野村さん: 多くのハッカソンでは「街の課題を解決しよう」「生活を便利にしよう」といった一言で表現できるテーマが多いと思います。今回は違うアプローチを試みて、ChatGPTを使って「田中翔太君」という自堕落な生活を送る大学生のペルソナを作りました。彼の生活スケジュール、食生活、プライベートの過ごし方などを詳細に設定し、そこから参加者が自分たちの興味に基づいて課題を見つけ、アプリのアイデアを生み出す形にしました。
―― その結果はいかがでしたか?
野村さん: 以前の小規模ハッカソンでは「生活を便利にするアプリを作ろう」というざっくりしたテーマだったところ、チームが作るアプリのアイデアが被ってしまいました。今回は7チームあっても、アイデアの方向性が全く被らなかったのが成果の一つだと思います。参加者は田中翔太君の生活に深く入り込み、「経済学部なのに授業に出ている、実は真面目なんじゃないか」といった考察までして、その人物に寄り添ったアプリを考えてくれました。
運営の苦労と工夫
―― ハッカソン運営で特に苦労した点は何ですか?
信田さん: 会場探しは苦労しましたね。予算の制約があったので、できるだけ安い場所を探していました。理想は知り合いの企業オフィスを使わせてもらうことでしたが、そういう繋がりもなく、結局公民館を借りることになりました。ただ、市民以外が使うと料金が1.5倍になったり、予約システムが使いづらかったりと、いろいろな障壁がありました。
野村さん: 最終的には大阪大学の豊中キャンパス近くの石橋会館に決めました。安価で、懇親会用に飲食可能で、Wi-Fiも使えるという条件が揃っていたんです。...ただ、当日Wi-Fiがパンクして使えなくなってしまいましたが(笑)。
―― 初心者向けのサポート体制はどのように整えられたのですか?
信田さん: ペルソナを設定したことも初心者向けの施策の一つだと思います。漠然としたテーマだと取り掛かりづらいので、あえてこちらで範囲を絞ることで、参加者が課題を深掘りしやすくしました。また、技術面では私と野村君が常に開発ミーティングに参加し、いつでも質問できる環境を作りました。
野村さん: 運営側から能動的に話しかけることで、参加者が受動的にサポートを受けられるようにしました。質問するハードルは意外と高いので、こちらから積極的に関わることで距離を縮め、どんどん質問しやすい雰囲気を作りました。
成果と印象に残ったプロジェクト
―― 全チームが期間内に開発完了したのは素晴らしいですね。印象に残ったプロジェクトを教えてください。
野村さん: 「眠眠撃々」というアプリは、アラームと連動したシューティングゲームで、物理的に体を動かして二度寝を防止するというコンセプトが面白かったです。また「もぐもぐ帳」は食事の写真を記録し、かわいいキャラクターを育成しながら3食欠かさず食べる習慣をつけるアプリで、ユニークでした。
信田さん: 中には審査当日までにリリースまで完了させてきたチームもありました。Flutter自体は初心者でも、ネイティブアプリで収益化するほどの個人開発経験がある方がいたチームだったので、そういったノウハウが活かされていたんでしょうね。
―― 審査基準はどのように設定されていましたか?
野村さん: チーム賞としてMVP(最小限の価値のあるプロダクト)賞とユニークアイデア賞を設け、それぞれ完成度とアイデアの面で評価しました。さらに特徴的だったのは個人賞で、結果ではなく過程を評価したいという思いから設けました。私たちメンターがミーティングに参加する中で、「この人のこの動きが良かった」「チームをまとめていた」といったソフトスキルを評価し、表彰しました。
学びと今後の展望
―― ハッカソン運営を通じての学びや改善点はありますか?
信田さん: 次回はもう少し余裕を持って準備したいですね。今回は企画から開催まで1ヶ月程度しかなく、スポンサー募集の時間も十分取れませんでした。次回は3〜4ヶ月ほど見て準備したいと思います。また、オフラインイベントならではの問題もありました。部屋の大きさと人数のバランスやWi-Fi容量など、事前に確認しておくべきことがたくさんあります。
野村さん: コミュニティとしてのつながりをもっと活かせたら良かったと思います。各チームにDiscordのチャンネルを与えていたのですが、プライベートチャンネルを作るチームも多く、チームを超えた交流が少なかったです。技術的なフィードバックだけでなく、参加者同士が教え合う雰囲気ができたら、もっと良いイベントになったと思います。
―― 今後のハッカソン開催についてはどのようなビジョンをお持ちですか?
野村さん: 夏頃にもう一度大きなハッカソンを開きたいと考えています。また、「尖ったイベント」もやってみたいですね。合宿型のハッカソンや猫カフェでのハッカソンなど、一癖あるイベントで人数が多くなくても、コミュニティ内外の人が繋がる機会を増やしていきたいです。
信田さん: 前回は関係性のある企業2社からの協賛でしたが、次回は全く関係のない企業5社以上からスポンサーをいただけるとうれしいですね。また、運営側も私たち二人だけでなく、もっと多くの人を巻き込みたいと思っています。
ハッカソンを主催したい人へのアドバイス
―― 最後に、これからハッカソンを主催したい人へのアドバイスをお願いします。
野村さん: 心配しすぎなくても大丈夫です。失敗しても大きな損失にはならないので、チャレンジしてみてください。最初は手探りで不安も多いですが、主催者が熱意を持って取り組めば、参加者も応えてくれます。
信田さん: 関係者全員が楽しめるように考えれば、どんな結果になってもハッピーになれると思います。ハッカソン開催で再起不能になるような失敗はまずないので、主催する側も参加者も楽しめるよう工夫して、迷わず挑戦してみてください。