
攻略法
京都市の都市課題とは?〜PLATEAU HACK 2025 初心者向けガイド〜
はじめに:このガイドを読む前に
「ハッカソンに参加してみたいけど、PLATEAUって何?」
「京都市の課題って言われても、何を作ればいいかわからない...」
そんな不安を抱えていませんか?大丈夫です。このガイドを読み終える頃には、きっと「これなら自分にもできそう」と思えるはず。
このドキュメントでわかること:
- PLATEAUとは何か、何ができるのか
- 京都市が抱える4つの課題と、なぜ解決が難しいのか
- 過去の受賞作品から学ぶ「評価されるアイデア」の共通点
- 2日間で形にするための技術選定
それでは、一緒に見ていきましょう!!!

🔰 そもそもPLATEAUって何?
PLATEAU(プラトー) は、国土交通省が進める「日本全国の3D都市モデル」を作るプロジェクト。
https://www.mlit.go.jp/plateau/
もっと簡単に言うと、Google Earthのようなものを、建物一つひとつの詳細データ付きで、誰でも無料で使える形で公開しているものです。「え、それだけ?」と思うかもしれませんが、この「詳細データ付き」というのがすごいんですよね。

PLATEAUで何がわかる?
普通の地図との違いは、建物一つひとつに「情報タグ」がついていること。
| 普通の地図 | PLATEAUの3Dモデル |
|---|---|
| 建物の形がわかる | 建物の形がわかる |
| - | 築何年かわかる |
| - | 何階建てかわかる |
| - | 木造か鉄筋かわかる |
| - | 住宅か商業施設かわかる |
| - | 浸水リスクがわかる |
この「情報タグ」のことを専門用語で セマンティクス(意味情報) と呼びます。つまり、見た目だけじゃなくて「この建物はどんな建物なのか」まで分かるということ。
LODって何?(よく出てくる用語)
ハッカソンの説明でよく出てくる「LOD」という言葉。これは「Level of Detail(詳細度)」の略で、3Dモデルがどれくらい細かいか を表す数字です。
- LOD1:箱型(ビルを上から見た形を立体にしただけ)
- LOD2:屋根の形がわかる
- LOD3:窓やドアの位置までわかる
京都市のデータは LOD3.3 まで整備されており、これは全国トップクラスの精度。
(アツぃ!!京都市ありがとう!)
正直、ここまで詳細なデータが無料で使えるのは贅沢な環境だと言えます。
💡 初心者向けポイント:LODの数字が大きいほど、リアルで詳細なデータ。京都市のデータは「すごく詳しい」と覚えておけばOKです。
京都市が抱える4つの課題
京都市は、以下の4つの課題に直面しています。これらはバラバラではなく、互いにつながっているのがポイント。
人口減少 → 空き家が増える → 景観が悪化 → 観光価値が下がる
↓
管理されない空き家 → 防災リスクが上がる
一つの課題を解決すると、他の課題にも良い影響が出る。逆に放置すると、悪循環が加速する。だからこそ、テクノロジーでの解決が求められているんです。
課題①:人口減少と高齢化

数字で見ると
- 2020年:146万人 → 2050年:124万人(約22万人減)
- 平均年齢:47歳 → 54歳(7歳上昇)
何が問題か
京都市には大学が多く、学生が約14万人(人口の10%)もいます。でも、卒業すると東京・大阪へ出ていく「学生流出」が止まらない。せっかく京都で学んでも、働く場所は他の都市を選んでしまう。
特に深刻なのが郊外の住宅地。洛西・向島ニュータウンなど、40〜50年前に造成されたエリアでは高齢化と人口減少が加速しています。
PLATEAUでできること
- 建物の築年数データを使って「今後空き家になりそうなエリア」を予測
- 学生が住んでいるエリアと生活利便性(スーパー、駅など)の関係を可視化
課題②:オーバーツーリズム(観光公害)

数字で見ると
- 2024年の観光客数:5,606万人(過去最高レベル)
- 外国人観光客:1,088万人(過去最高)
- 観光消費額:約1.5兆円
何が問題か
観光で経済は潤っている。でも、その裏で市民生活は圧迫されています。
「観光客が多すぎて市民がバスに乗れない」という声は80%以上。清水寺方面のバス停では「最後尾が見えない」ほどの行列ができることも。祇園では舞妓さんへの追いかけ行為、私道への無断侵入、夜間騒音といったマナー問題も深刻化しています。
京都市の対策
- 観光特急バス(500円、京都駅→清水寺ノンストップ)を新設
- 「バス1日券」を廃止
- 「朝京都」「夜京都」キャンペーンで時間分散
行政も手を打っていますが、まだまだ解決には至っていません。
PLATEAUでできること
- リアルタイムの人流データと3Dモデルを組み合わせた混雑可視化
- 「今この場所は混んでいるから、こっちに行こう」と誘導するアプリ
- ARで「知られざる穴場スポット」を表示
💡 過去の受賞例:2023年グランプリ「Kyoto Itinerary」は、まさにこの課題に取り組んだ作品。混雑回避をゲーム化したアプローチが高く評価されました。
課題③:地震・水害リスク

数字で見ると
花折断層帯地震(M7.5想定)が起きた場合:
- 死者:約4,700人
- 全壊建物:11.1万棟
- 避難者:24万人
- 火災による焼失:2.4万棟
何が問題か
京都は複数の活断層に囲まれた土地。そして、京町家に代表される伝統的な木造建築は、現代の防火基準を満たしていないものが多い。路地が狭く、消防車が入れない場所も少なくありません。
2013年の台風では桂川が越水寸前となり、約10万世帯に避難勧告が発令されました。水害リスクも無視できない状況です。
最近の出来事
先斗町で火災が発生し、防災の必要性が改めて浮き彫りになりました(動画)。ニュースで見た方も多いのではないでしょうか。
PLATEAUでできること
- 「築50年以上の木造建物」×「浸水想定区域」のクロス分析
- 垂直避難(上の階に逃げる)が可能な建物を地図上に表示
- 観光客向けの多言語避難ナビ
課題④:空き家と京町家の消滅

数字で見ると
- 京都市の空き家:約11万戸(空き家率12.9%)
- 京町家:2008年に47,735軒 → 2016年に40,146軒
- 1日2軒以上のペースで京町家が消えている
この数字、衝撃的ですよね。
何が問題か
京町家は断熱性・防音性が低く、現代の生活には合わない。耐震性の問題もあり、改修には多額の費用がかかります。そして何より、後継者がいない。
「京都らしさ」の象徴である京町家が、静かに、でも確実に消えていっている。
京都市の対策
- 2026年から全国初の「空き家税」を導入予定
- 重要京町家として1,418軒を指定し保全
PLATEAUでできること
- 建物の築年数・構造データから「空き家になりそうな建物」を予測
- 京町家の3Dデジタルアーカイブ(消えてしまう前に記録する)
- 「この建物をカフェにしたらどうなる?」という用途変更シミュレーション
受賞作品から学ぶ「評価されるアイデア」の作り方
過去のKYOTO PLATEAU HACKやPLATEAU AWARDの受賞作品を分析すると、一つの傾向が見えてきます。
「〇〇マップ」で終わらない作品が高評価を得ている。
❌ 評価されにくいアイデア
「空き家マップを作りました」
「浸水リスクを地図に表示しました」
→ 可視化しただけで終わっている
地図に情報を載せるだけなら、既存のサービスでもできてしまう。審査員が見たいのは「その先」なんです。
✅ 評価されるアイデアの4パターン
では、どんなアイデアが評価されるのか。過去の受賞作品から4つのパターンを紹介します。
パターン1:シミュレーション型
「もし〇〇だったら?」を検証できる
- 街の"未来"を描く地図(PLATEAU AWARD 2024グランプリ)
- 建物データから容積率を自動計算
- 「この土地に建物を建てたら、どれくらい日が当たるか」をシミュレーション
- 用地取得の効率が14倍に向上したという実績付き
「可視化」から「シミュレーション」へ。この一歩が大きな差を生みます。
パターン2:ゲーミフィケーション型
課題解決を「遊び」に変える
- Kyoto Itinerary(KYOTO HACK 2023グランプリ)
- 混雑スポットを避けると「ポイントがもらえる」仕組み
- 穴場スポットに行くと「実績解除」
- 観光客が自然と分散する設計
- スカイランナー 高層の冒険者
- PLATEAUの建物データを使った3Dアクションゲーム
- ご当地オブジェクトを集める楽しさ
- → その後PLATEAU AWARDにステップアップ
https://speakerdeck.com/toshiseisaku/no-dot-9-sukairanna-gao-ceng-nomou-xian-zhe
「課題解決」と「楽しさ」は両立できる。むしろ、楽しくないと使ってもらえないですよね。
パターン3:体験型(AR/VR)
新しい「体験」を作る
-
一条通百鬼夜行伝説
- 京都の百鬼夜行伝説をARで再現
- 観光の「消費」ではなく「体験」を提供
https://youtu.be/5PXCqiExKXw?si=dE6ezPwHl6zzk3Qi
-
空傘散歩
- 傘を操作デバイスにしたVR空間飛行
- 現実にはできない体験を創造
https://speakerdeck.com/toshiseisaku/no-dot-1-kong-san-san-bu
京都という土地の歴史や文化と、最新技術を掛け合わせる。これは京都でしかできないアプローチかもしれません。
パターン4:AI連携型
PLATEAUデータ × 生成AIの組み合わせ
-
PLATEAU Agent
- LLM(大規模言語モデル)で3D都市データを分析
- 「この地域の課題は?」と聞くと回答してくれる
https://speakerdeck.com/toshiseisaku/no-dot-10-plateau-agent
-
AI Texture Generator
- OpenAI APIで建物のテクスチャ(外壁の見た目)を自動生成
https://speakerdeck.com/tatsuya1970/ai-texture-generator
- OpenAI APIで建物のテクスチャ(外壁の見た目)を自動生成
💡 ポイント:正直に言うと、PLATEAU × 生成AIの領域はまだ未開拓な部分が多い。だからこそ、ここで新しいアプローチを見せられれば、審査員の印象に残りやすいはずです。個人的にも注目している分野ですね。
🔗 PLATEAUと組み合わせると強いデータ
PLATEAUだけでも十分ですが、他のオープンデータと組み合わせるとアイデアの幅がグッと広がります。
| データ | 何がわかる | 形式 | 取得先 |
|---|---|---|---|
| 京都市オープンデータ | 観光統計、旅館一覧、町別人口、公衆トイレ位置 | CSV | 京都市オープンデータポータル |
| 京都市バスGTFS-JP | バス停位置、時刻表、経路 | API | 公共交通オープンデータセンター |
| e-Stat API | 国勢調査、経済センサス(町丁目・メッシュ単位) | API | e-Stat |
| 気象庁API | 天気予報、過去気象データ | JSON | 気象庁 |
| 国土数値情報 | 用途地域、浸水想定区域、土砂災害危険箇所 | Shapefile/GML | 国土交通省 |
「PLATEAUの建物データ」×「バスの混雑データ」×「観光客の動線」みたいな掛け合わせができると、オリジナリティが出ますよね。
🛠 2日間で形にするための技術選定
ハッカソンは時間との勝負。「やりたいこと」と「技術力」のバランスで選ぶのが鉄則です。
背伸びしすぎて動かないより、確実に動くものを作る方が評価されます。
注意
今回のハッカソンは PLATEAU HACKという名前ではありますが、必ずしもPLATEAUを使わないといけないわけではありません。
もしその対峙したい課題に対して、GoogleMap APIの方が良いなど判断できるならば、それを使ったサービスでも良いでしょう。
初心者〜中級者向け
| やりたいこと | おすすめ技術 | 難易度 |
|---|---|---|
| Webブラウザで3D地図を表示 | Cesium JS + Cesium ion | ★★☆ |
| ノーコードで3Dマップ作成 | Re:Earth | ★☆☆ |
| Pythonでデータ分析 | PlateauKit | ★★☆ |
中級者〜上級者向け
| やりたいこと | おすすめ技術 | 難易度 |
|---|---|---|
| ゲーム・AR/VRアプリ | Unity + PLATEAU SDK | ★★★ |
| 交通シミュレーション | Unity + PLATEAU SDK Toolkits | ★★★ |
| Unreal Engineで開発 | PLATEAU SDK for Unreal | ★★★★ |
技術選定のコツ
1. チームの技術力を正直に評価する
Unity経験者がいないのにUnityを選ぶと、環境構築だけで半日が終わってしまうことも。Cesium JSかRe:Earthなら、Webの知識があれば始められます。Python得意な人がいるなら、PlateauKitでデータ分析に集中するのもアリ。
2. 「動くもの」を優先する
高度な機能より、まず動くプロトタイプ。これは本当に大事です。
審査員は「完成度」より「可能性」を見ています。荒削りでも「この方向性は面白い」と思わせられれば、それで十分。逆に、動かないデモは評価のしようがありません。
3. データのダウンロードは事前に
PLATEAUのデータは数GBあることも珍しくない。会場のWi-Fiは参加者全員で共有するので、当日ダウンロードしようとすると痛い目を見ます。必ず事前にダウンロードしておきましょう。
📋 審査基準(PLATEAU AWARDより)
最終的に何を目指せばいいか。審査基準は以下の4軸です:
| 基準 | 意味 |
|---|---|
| 3D都市モデルの活用度 | PLATEAUのデータをちゃんと使っているか |
| 創造性 | 新しいアイデアか、既存にない切り口か |
| 実現性 | 実際に使えるものか、技術的に可能か |
| 都市課題の解決 | 京都市(または他都市)の課題解決につながるか |
💡 ポイント:4軸すべてで満点を取る必要はありません。どれか1つでも突き抜けていれば評価される。「創造性」で勝負するのか、「実現性」で勝負するのか、チームの強みに合わせて戦略を立てましょう。
まとめ:KYOTO PLATEAU HACK 2025で目指すもの
京都市の課題は複雑に絡み合っています。でも、だからこそPLATEAUの「建物単位のデータ」が活きる。
やってほしいこと
- 4つの課題(人口減少・オーバーツーリズム・防災・空き家)から1つ選ぶ
- 「〇〇マップ」で終わらないアイデアを考える
- シミュレーション・ゲーミフィケーション・AR/VR・AI連携のどれかを組み合わせる
- 自分たちの技術力に合った技術を選ぶ
- まず動くものを作る
データの入手先
- G空間情報センターから京都市のPLATEAUデータをダウンロード(無料)
- 2024年度版・LOD3.3対応の最新データセットを使用
KYOTO PLATEAU HACK 2025は、京都の未来を変えるプロダクトの出発点になり得るイベントです。
過去には、ハッカソンで生まれたアイデアがPLATEAU AWARDにステップアップした事例もあります。2日間で作ったプロトタイプが、その先のキャリアや事業につながるかもしれない。
ぜひ、この機会を活かしてください。会場でお会いできることを楽しみにしています!!!!!!!!!!
👉 KYOTO PLATEAU HACK 2025 エントリーはこちら


Shin Yamamoto